このスーツ、実は失敗作だったんです
今から何年前だったっけかなぁ?
韓国は梨泰院のハーバード・テーラーで黒いスーツをオーダーしました。
イメージしていたのは往年の巴里時代のマイルス・デイビスが着ていた
ような細身でジャジーなコンポラ・スタイルでした。
ところが、出来上がったスーツを見て唖然。
パンツの裾が中途半端に幅広い! 俺の希望は16cmのトップだったのに。
しかも、所謂、70年代ソウルマン的なシルエットのフレア・パンツってわけ
でもなく、凄く中途半端な裾幅のパンツだ。ジャケも襟の部分がぶっとくて
昭和40年代の演歌歌手みたいな感じだ。参った。。。
結局、そのスーツは捨てはしなかったけど、お蔵入りとなり、別の生地で
シャープでスリムなスーツを作った。当初の希望通りのスーツが完成して
小躍りしたくなる予定だったのに、内心そうでもなかった。
あまりにも型にハマったコンポラ中のコンポラだったんで、ちっとも感動が
沸き上がって来なかった。カッコイイけどちっともグッと来ないのだ。
それから数ヶ月後、いや、約1年を経過した頃、冠婚葬祭(どっちだったか
忘れたぜ)で、黒いスーツが必要となり、スタッフに「衣装でも、元衣装でも
なんでもいいから黒のスーツ貸してくんない」って。
そこで、貸し出されたのが、韓国で作った例の失敗スーツだったのである。
ところが、このスーツ、やけにスタイルが良く見えるらしく「剣ちゃん足長い
ねぇ!」とか、「シルエットがめちゃくちゃカッコイイ!」と評判も上々。
思わず姿見を見たら、確かに、こう、なんとも言えず素晴らしく美しいライン
だったのである。しかも、俺のオーダーと他のメンバーのオーダーが微妙に
混ざっちゃった出来具合は他に類をみないほど絶妙。
以来、スーツを新調するときはこの失敗スーツ(a.k.a. ミラクル・スーツ)の
型紙をベースにしているのだ。
俺の芸名も印刷ミスか、指示ミスか忘れたが、横山剣輝の「輝」が抜けて
横山剣名義でデビュー・シングル「シンデレラ・リバティ」の作詞・作曲欄に
クレジットされていて、直すのも面倒だからそのままにしておいた。
もし、あの時、額面通りに本来の芸名である横山剣輝にしていたら、
クレイジーケンキバンドだ。絶対、成功しなかっただろう。
てなわけで、ある時期を境に「こだわらないというこだわり」にこだわりを持つ
ようになったのであります。で、それがキツくなったらなったで「こだわらない
というこだわり」にさえもこだわらずいよう、と自分勝手なことを想っております。
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